2021 年 35 巻 2 号 p. 187-205
応用行動分析学はその黎明期において、精神科臨床の領域においても盛んに研究が行われていた。ところが、その流れは1980年代には行動療法の一部としてみなされるようになり、現在では広義には第3世代とされている認知行動療法(CBT)の中で、行動分析学の原理を取り入れた臨床行動分析として発展を続けている。しかし、CBTあるいは臨床行動分析の効果検証は、実証的に支持された治療(EST)の影響を受けて、主に無作為対照化試験(RCT)などのグループ比較デザインにとどまっており、行動分析学の方法論に基づいた実践研究はほとんど行われていない。本論文では、最初に、①精神科臨床における応用行動分析学の歴史を振り返る。次に、②現在の精神科臨床において薬物療法以外で標準治療とされているCBTについて、その歴史と行動分析学との関係について整理する。そして、③CBTが掲げるエビデンスの特徴と問題点を指摘する。最後に、④精神科臨床において、グループ比較デザインの知見とシングルケースデザインの方法論に基づく実践効果検証それぞれの利点を活かして統合し、応用行動分析学に基づく完成度の高い実践(well-established practices)を目指すことが重要であることを論じる。今後、精神科臨床の領域においても行動分析学の方法論を用いた実践を増加させる仕組みづくりが必要である。