生物教育
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研究論文
市販のミニトマトF1品種とその後代F2を利用してメンデルの法則を体験する
猿舘 みのり白井 賢太朗秋田 薫馬場 健一郎渡邉 学中西 啓由比 進
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2020 年 62 巻 1 号 p. 2-11

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抄録

トマトは自殖性植物であることから,市販のミニトマトF1品種「オレンジキャロル(サカタのタネ),アイコ(サカタのタネ),ティンカーベル(ナント種苗)」を栽培して収穫した果実から,自家受精(自殖)したF2種子を得た.このF2世代を径10.5 cmの小ポットでそれぞれ104個体,70個体,41個体栽培したところ,葉色および生育,果肉色,果皮色など,複数の形質について簡単に識別できる遺伝的分離が認められた.特に「オレンジキャロルF2」ではメンデルの優性の法則,分離の法則,独立の法則のすべてを観察することができた.このように,市販のミニトマトF1品種を普通に栽培して収穫した果実から種子を得れば,遺伝的分離を観察できるF2種子が交配操作なしで得られる上,多数個体を栽培して分離を観察することも比較的容易であることが明らかになった.この「オレンジキャロルF2」を利用した実験に高校生が取り組み,栽培に成功して遺伝的分離を観察することができた.また,実験後のアンケート結果から,遺伝への興味とメンデルの法則への理解が有意に向上していた.このように,市販のミニトマトF1品種を利用して遺伝法則を体験する方法は交配操作なしで容易に行える長所があり,「オレンジキャロルF2」についての葉色の遺伝的分離だけであれば播種後2~3週の短期間で観察することが可能である.一方で,遺伝観察の基本である両親系統を入手することができないことはこのような手法の問題点であり,限界でもある.

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© 2020 一般社団法人 日本生物教育学会
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