2021 年 62 巻 3 号 p. 160-166
本稿では,2018年12月に実施した神奈川県内の高等学校の生物教員へのアンケート調査および2016年から2018年に検定された生物基礎および生物の教科書の観察実験及び探究項目の記載内容の分類に基づき,現在の高等学校における生態学教育における課題を整理した.質問項目は以下の4項目に大別される.教科書の内容への所感,授業で用いる教材への所感,体験型学習の実施状況,自身が受けた生態学教育の経験と生態学分野への印象.アンケート調査の結果から,教科書の内容の偏りを指摘する意見があったほか,野外での体験型学習を授業で実施したくてもなかなか実施できない現状,実際に教員が生態学を学ぶ機会の中でも体験型学習の機会が必ずしもあるとは言えない現状などが示唆された.博物館やオンライン教材についても,高校生物の教育現場の要望に適合した教材があまり多くない現状が浮き彫りとなった.また,教科書解析から,観察実験や探究の項目はのうち,授業で実施されている項目は限定的である傾向が見られ,実習内容については教員が自身の技量や経験に基づき独自に実施している例も見られた.以上より本稿から示唆される高等学校での生態学教育における今後の課題は,高校の教育現場の要望を反映した教材の開発と,教員が独自に考案した個別の教材を地域や学校を超えて他の教員が広く参照できる体制の強化である.