2025 年 66 巻 3 号 p. 137-144
本研究の目的は,保育者がそのキャリアを通じて虫に対する感情をいかに変化させていくのか,また,その感情の変化とともに虫の扱いに関する実践的技能をいかに熟達させていくのか,そのプロセスと影響を与える要因を捉えることである.虫への態度の変化には,個人的な経験や所属する園の環境など,個別性の高い複合的要因が関与すると考えられるため,量的な質問紙調査のみによって把握することは困難である.そこで本研究は経験を通した「過程」とそれによる実際の姿「実存性」を対象とすることから,質的研究法のうち「時間を捨象せずに人生の理解を可能にしようとする文化心理学の新しいアプローチ」であるTrajectory equifinality approach(TEA)を方法論として採用した.具体的には,虫への感情や態度がキャリアと共に肯定的に変化したことを実感する保育者へのインタビューを実施し,その語りを異なる専門性を有する複数の研究者が分析することで,保育者の虫への感情・態度変容の内的プロセスとその背景にある要因を多角的かつ精緻に捉えることを試みた.