2016 年 43 巻 1 号 p. 19-26
近年, 尿失禁や便失禁症状を有する症例に骨盤底筋の筋収縮を促すことが症状の改善に効果的であることが報告されているが, 本邦における実践報告は未だ少ない. 今回, 骨盤底筋の選択的筋収縮が困難であった便失禁を有する症例に対して, 骨盤底筋の筋放電を確認しながら筋収縮を確認し, 筋収縮を調整する筋電図バイオフィードバック療法が症状の改善に有効であったので報告する.
症例は, 膀胱瘤により骨盤臓器脱術を受けた70歳の女性である. 骨盤臓器脱の症状は手術により改善したが, 運動時にガス程度の便失禁が4~5回以上認められた. 開始時の筋電図所見は, 骨盤底筋と腹筋群を同時に収縮させる傾向が認められた. 骨盤底筋の最大収縮時の筋活動量は10μVであった.
評価および介入は, Myotrac3 (Thought Technology社製) を用い, 骨盤底筋と腹筋を分離して筋収縮させることを目的として実施した. 骨盤底筋と腹筋の筋電位をモニターしながら2週間に1回, 10セッション行った.
10セッション実施の結果, 最大収縮時の筋活動量はセッション全体を通し著明な増加は見られなかった. 持続的収縮においては8セッションから骨盤底筋のみを収縮させることが可能となった. 運動時の失禁頻度は6セッション時から減少した.
今回, 得られた結果から, 最大収縮の活動量の増加よりも腹筋と骨盤底筋の分離した収縮を習得することが, 症状改善に寄与している可能性が示唆された. このような実践報告を積み重ねることが, 本邦における便失禁に対する筋電図バイオフィードバック療法の普及の一助になると考える.