行動医学研究
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原著
嫌悪刺激のコントロール可能性は唾液中分泌型免疫グロブリンA量を無意識的に規定する
大平 英樹
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2001 年 7 巻 1 号 p. 30-38

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抄録

目的:動物実験によって、電撃などの嫌悪事象は、それがコントロール不能な場合にはより顕著な免疫能低下をもたらすことが示されている。しかし、ヒトでこの現象を検討した例は少なく、結果は錯綜している。本研究の目的は、動物実験で標準的に用いられるトリアディック・ヨークト・デザインをヒトに適用し、コントロール可能性が分泌性免疫に及ぼす効果を検討することにある。指標としては、唾液中より同定される分泌型免疫グロブリンAを測定した。
対象:女子大学生30名 (年齢20-23歳) が3つの実験群にランダムに割り当てられた。
方法:実験は、前処置課題とテスト課題から構成された。前処置課題では2つのキー押しによる反応選択課題が課され、コントロール可能群では一方のキーを押した場合にのみ70%の確率で正答のフィードバックがなされた。誤答の場合には約100dBの不快ノイズが与えられた。コントロール不能群ではヨークトされた確率でランダムにフィードバックが与えられた。統制群では前処置課題を行わなかった。テスト課題は3群共通で5つのキーからひとつを選択する反応選択課題を行った。実験前、各課題直後に唾液を採取しs-IgAを測定した。同時にコントロール可能性の知覚、主観的なストレス強度を評定させた。また、実験中、心拍を連続測定した。
結果:コントロール不能群では、コントロール可能群、統制群に比べ、有意にテスト課題の成績が悪かった。また実験前のベースラインと比較して、各課題後に唾液中s-IgA量の増加が観測された。増加率はコントロール不能群で最大であり、統制群ではベースラインから有意な増加はみられなかった。一方、主観的なコントロール可能性、ストレス強度の評定には群間差はみられなかった。
考察:本研究は、嫌悪事象による急性ストレスのコントロール可能性が、唾液の免疫能に影響することを示した最初の報告である。s-IgA量の増加が急性ストレス負荷への反応だと推測すると、ストレス刺激がコントロール不能な場合に免疫系のストレス反応はより強くなることが示唆された。さらに、先行研究とは異なり、こうした反応はコントロール可能性が必ずしも知覚されなくとも、無意識的・自動的に生起することが示された。

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© 2001 日本行動医学会
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