文化人類学
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歴史のなかのグローバリゼーション : ボルネオ北部の植民地期と現代にみる労働のかたち(<特集>人類学の歴史研究の再検討)
石川 登
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2004 年 69 巻 3 号 p. 412-436

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抄録

本稿は現在「グローバリゼーション」として議論されている現象を歴史的に理解するために、東南アジア島嶼部ボルネオ島に焦点を当てながら、戦間期と現在という二つの歴史時間における労働の組織化を比較する。第一の事例では、1920年代ならびに1930年代の北ボルネオ会社による植民地経営のもとでのゴム・プランテーションにおける華人ならびにジャワ人契約労働者の動員形態、西ヨーロッパの資本家を中心とする企業家のネットワーク形成、これらを支えるオランダとイギリスの労働移民をめぐる植民地政策、さらには国際労働機関(ILO)などの国際機関の関与などの検討を通して、戦間期東南アジア島嶼部におけるトランス・コロニアルな国際レジームの動態を検討する。第二の事例としては、現在のマレーシア、サラワク州北部にける合板工場などの木材関連産業、油椰子プランテーション、アカシア植林産業に注目し、台湾、香港、中国本土、フィリピン、インドネシアなどの華人企業ネットワーク形成と日系企業の資本投下ならびに技術移転のもとで進むインドネシア人労働者の国家をこえた組織化を1980年代後半から現在にいたる地域史のなかで検討する。戦間期と現在における労働をめぐる権力布置の比較を通して、本稿は二つの歴史的エポックに通底する性格、すなわちトランスナショナリズム、混淆性、非領域化などを指摘し、グローバリゼーションと呼ばれる現象のもつ振り子運動的な性格に注目しながら、共時的なフィールドワークを通した歴史の遡及的な理解の可能性を示唆する。

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2004 日本文化人類学会
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