アルフレッド・ジェルは、美学的な芸術の人類学の方法は行き止まりに突き当たると言った。それはどのような行き止まりだったのか。この行き止まりを超えることはどのようにして可能だとジェルは考えていたのか。このような疑問に突き動かされて本稿は書かれている。ジェルのArt&Agency(以下AA)を批判したロバート・レイトンは、ジェルが芸術の人類学を議論する時、文化や視覚コミュニケーションを重要視しない点を批判した。もしも見直す時間が残っていたら、ジェルは、このような点を書き改めたに違いないとレイトンは言う。レイトンはジェルの作品全体の中にAAを位置づけなかったから、このような仮定が立てられたのだろう。私はAAをジェルのより大きな作品群の中に位置づけなおして、ジェルの芸術の人類学が前提とした認識論へ接近しつつ、その芸術の人類学で重要な役割を果たした再帰的経路の働きと、図式の転移について考察する。