文化人類学
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不確実性のゆくえ : フランスにおける連帯経済の事例を通して(<特集>アカウンタビリティ)
中川 理
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2009 年 73 巻 4 号 p. 586-609

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抄録

本論は、よりアカウンタブルになっていく世界における人々の経験の不確実性のゆくえを、フランスにおける連帯経済という事例を通して問うものである。連帯経済とは市場経済の全面化に対抗して互酬性や贈与の理念にもとづいた経済を作り出していこうとする動きである。本論では、この動きをよりアカウンタブルな世界の構築として分析する。そのためにまず、よりアカウンタブルな世界の構築とは何かを先行研究の解読を通して明らかにする。そこで明らかにされるのは、人びとの認知を標準化し媒介するもの(本論ではそれをディスポジティフと呼ぶ)がつくられ配置されていくことによって、不確実だった日常世界をより客観的なかたちで認識することが可能になるという意味でのアカウンタビリティと、人びとの活動をなぜそうするのがよいのかはっきりと言葉で説明できるという意味でのアカウンタビリティを同時に作り出していくということである。この観点から連帯経済は、互酬性や贈与の価値にもとづくアカウンタブルな世界を作り出していくものとして理解できる。しかし、そこでは人々の経験は確実で説明可能なものへと飲み込まれていくのだろうか?これが本論の問いである。日常的文脈における交換の事例を通して、本論ではディスポジティフが世界を説明可能にする力は限定的であり、状況は多くの場合あいまい、不透明、不確実であることを示す。そして、このような状況での行為はアカウンタブルではない「賭け」となると論じる。

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2009 日本文化人類学会
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