文化人類学
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批判と連帯 : 日韓間の歴史対話に関する省察(<特集>ネオリベラリズムの時代と人類学的営為)
板垣 竜太
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2009 年 74 巻 2 号 p. 293-315

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抄録

本稿は、1990年代末から2000年代にかけて日本と韓国にまたがって展開してきた歴史をめぐる対話を事例にしながら、新自由主義が一つの大きな力となって進行しているグローバル化の状況における知的な緊張関係について考察するものである。この時期の対話は、ポスト冷戦期の日本および韓国における歴史研究の同時代的な流れが相互に出会ったものとしてとらえられる。ここでは3つの流れが注目される。(1)ポストマルクス主義:日本の「戦後歴史学」の見直しと、韓国の民主化運動のなかで培われてきた歴史学のパラダイムに対する再考の流れがあった。(2)国民国家論と民族主義批判:国民国家の形成過程を批判的にとらえ直す日本の研究動向と、民族主義的な歴史認識に対する韓国での論争があった。(3)近代性批判:問題の起源を近代に遡って探求する、あるいは近代性そのものの問題を明らかにする研究視角が歴史研究で強まった。それとともに「日本」という時空間で完結し得ない「帝国史」研究の方向と、植民地主義と近代性をめぐる議論の深まりがあった。こうした知的脈絡が出会っていくなかで、いくつかの問題にも突き当たった。特に、以下の3つの徴候が考えるべき問題を投げかけている。(1)「国史」について:ナショナル・ヒストリー批判とひとことでいっても、そこには複数の力のベクトルがせめぎあっており、そこから同床異夢も生じている。(2)植民地主義と近代性:近代性批判が、逆説的にも近代性への問題の還元論となり、植民地主義批判が曖昧になっている。(3)「和解」の政治:「加害」「被害」を単純化しながら、和解のメッセージを読み取る言説が増殖している。以上のような動向は、ポスト冷戦およびグローバル化のなかでのポストコロニアルとポストモダンの緊張関係という観点から考えることができる。

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2009 日本文化人類学会
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