文化人類学
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特集 東アフリカにおけるシティズンシップ
女たちは踊ることができるか?
カンパラのバーガールのシティズンシップとその「主体性」への再考
森口 岳
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2018 年 83 巻 2 号 p. 213-232

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抄録

本稿で取り扱うのはアフリカの貧困女性たちのウガンダ、カンパラの都市社会において、家族的なものと性的なものの二つのシティズンシップと、その二つの領域を行き来するバーガールたちの「主体性」をめぐる諸実践についてである。

カンパラの郊外・スラムにおいて、女性の貧困問題はその社会の「シティズンシップ」の構成要素と密接に関連している。なぜならば、国家の社会保障が確立されていないウガンダの都市社会においては、親族・家族などの関係性に女性は大きく依存し、経済活動も独身か既婚かなどの女性の社会的地位に左右されるからである。そのような女性たちのシティズンシップは家族的なもの(familial citizenship)を通して、社会的発言や保障が実現されるが、その一方でその状況は独身女性(途中で学校教育をドロップアウトした十代の女性も含む)や離婚女性などに特に抑圧的に働き、女性を家族的なシティズンシップ内でどうしても従属的なものとする。だが、その一方でカンパラの貧困女性たちはその性的なプレゼンスを(性を家庭内のみに封じこめようとするパターナルな抑圧に対抗しながらも)発揮し、ある種の性的なシティズンシップ(sexual citizenship)の領域を創り上げている。

そのため、本稿では東アフリカの女性を取り巻く社会環境(特に都市部)と、彼女たちの誘惑と自己決定の問題に焦点をあて、セクシュアリティとシティズンシップの関係性について考察を述べていきたい。特に本稿で取り上げる「踊り」は、主体と客体の、能動と受動の間を誘惑することで戯れる一つの事例としてある。そのため本稿の目的は、「女たちが踊る」シーンを取り上げることで、彼女たちの「踊り」の実践の自己決定性を問い、シティズンシップの希求を内包するエージェンシーのあり方を吟味することである。

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2018 日本文化人類学会
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