文化人類学
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原著論文
土地と向き合う人々
ソロモン諸島マライタ島北部における森林伐採の展開と土地-自己知識の真理性について
橋爪 太作
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2020 年 85 巻 2 号 p. 206-225

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抄録

 ソロモン諸島マライタ島北部西ファタレカ地域では、中国・東南アジアの経済発展を背景とした華人系森林伐採企業の進出が相次ぎ、開発対象となる土地では争いが頻発している。だがその裏では、森林伐採を契機として数〜十数世代前に離れた故地との紐帯を再構築し、そこから独自に新たな暮らしを拓こうという動きも巻き起こっている。

 しかし公的な土地制度の未整備や過去に試みられた在地の知識編纂事業の失敗により、両者の関係を一義に規定することは困難である。本論はこうした状況を背景に、土地について相異なる見解を持った人々がその知識の真理性をいかに確証しているのかについて検討する。

 考察の鍵となるのは、人格、社会関係、そして自然を巻き込んだ運動の媒体である土地が、当事者にとってさえ「わからない」領域を残した存在であるということである。これは単なる不可知論ではなく、むしろ他者や土地それ自体が絶えず変化する状況において、それらと結びついた自己知識が動態的に構築されていくプロセスと、当事者にとって真理(ママナ)とされるものの事後的かつ一時的な確定を意味する。

 本論の最終的なねらいは、メラネシアの土地-自己関係をめぐる従来の人類学的議論に共通して見られるある前提——「真正な」土地との関わりとそうでないもののア・プリオリな線引き——を批判的に再考し、一義性ではなく多義性、確実性ではなく不確定性を根底に据えた新たな真理観のもとにそれらを再構築する可能性を提示することにある。

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2020 日本文化人類学会
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