文化人類学
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原著論文
人類学者がフィールドに残すもの
バングラデシュ・ゴヒラ村の人々の記憶に生きる原忠彦教授
南出 和余アナム ムジブル
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2020 年 85 巻 2 号 p. 226-241

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抄録

 本稿は、1960年代に現在のバングラデシュ(当時の東パキスタン)で故原忠彦氏(元東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)が実施したフィールドワークの軌跡を、調査地の人々の記憶のなかに追い、人類学者と調査地の人々の「長期的関係」について検証する。原氏による民族誌「東パキスタンのモスレム農村における家族と親族」(1967)は、当該地域に関する世界で最初の本格的な民族誌であり、親族構造と宗教を軸とした価値体系から当該社会の世界観を描いている。この民族誌が描かれた過程を調査地の人々の記憶から検証するとともに、人類学者との出会いや関係を人々がどのように解釈記憶しているかということから、人類学者がフィールドに残した影響について明らかにする。

 人々の記憶には、当時の原氏のフィールドワークの様子だけでなく、原氏と自分たちとの関係、また自分たちが原氏からどのような影響や恩恵を受けたかという、調査地の人々の「自分語り」の側面も往々に含まれていた。本稿では、それらの語りから、フィールドの人々にとっての人類学者との出会いと、当該地域に民族誌が存在することの意味を考察する。「記憶の政治」を考慮するならば、「人類学者と調査地の人々の長期的関係」とは個人レベルの関係に留まらず、人類学者がこの世を去った後もなお解釈され続ける。そのことは、70年代以降のWriting Cultureの議論を踏まえた60年代民族誌再定義の可能性を示すものと考える。

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2020 日本文化人類学会
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