文化人類学
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特集 世界と共に感じる能力ーー情動、想像力、記憶の人類学
デ・アントーニ アンドレア村津 蘭
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2022 年 86 巻 4 号 p. 584-597

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抄録

本特集の目的は、情動と身体化された記憶の関係性に着目しながら、そこにおける想像力の役割を明らかにすることである。近年文化人類学的研究は、物質を人間の経験の条件として、身体を「文化と自己の実存的な基盤」[Csordas (ed) 1994]と考える必要性を認識してきた。その中で情動は、認知や言語、個人未満の「強度」に着目してリアリティの発生過程を追うことができる概念として注目され、幅広く人文科学に影響を与えている。しかしこれまでの情動の研究は、身体感覚より感情に重きを置く傾向があり、また、情動の意味、言説未満のあり方を強調し、同質性の高いものと捉えがちであった。そのため本特集ではフィールドにおける身体経験を起点に、言説や意味も含めた絡まり合いを見ていくことで、情動論が抱える諸問題を乗り越えようとする。その上で本論が焦点を当てるのは想像力の役割である。想像力は、これまで実践と言説の修辞的装置として扱われたり、肯定的でロマン主義的に描写されたりする傾向があり、現実を構成するものとしての役割や限界などについて議論されてこなかった。本論は、想像力を精神的な働きや、特別な認知の形態と捉えるのではなく、知覚を基盤とした現実を生成する能力として捉え、実践の中での役割とその働きの特徴を身体的記憶と情動に着目しながら明らかにしていくものである。それにより、想像力、情動と実践の生成に関する視座に新たな地平を開くことを目指す。

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2022 日本文化人類学会
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