2015 年 40 巻 4 号 p. 786-790
症例は61歳の男性で,動脈硬化性疾患を有し,S状結腸癌に対し上直腸動脈温存S状結腸切除が行われた.術後10カ月目頃より下腹部痛,粘血便およびテネスムスを認め,虚血性腸炎と診断された.保存的治療では改善せず腹会陰式直腸切断術を施行した.上直腸動脈温存,下腸間膜静脈処理による相対的な静脈血流増加および慢性に進行する腸間膜の線維化による辺縁動静脈の狭窄や閉塞により,直腸壁内の微小循環の不均衡を引き起こしたことが遅発性の虚血性腸炎を発症したと原因と考えられた.郭清を要する消化管手術において,下腸間膜動脈を温存する場合には極力,下腸間膜静脈を温存する必要があると思われた.