2015 年 40 巻 6 号 p. 1090-1095
症例は51歳,男性.主訴はコーヒー残渣様嘔吐と黒色便で,精査にて多発性肝転移を有する食道胃接合部癌と診断された.生検標本の免疫組織染色でHER2が陽性であり,capecitabine,cisplatin,trastuzumabによる併用化学療法を開始した.3コース後の腹部造影CT検査では肝転移巣は縮小し,RECIST基準にてPRと判定した.8コース後もPRを継続していた.根治切除による予後改善を期待して,胃全摘,下部食道切除術,脾摘,D2郭清,3か所の肝部分切除術(S5,S6,S8)を行った.組織学的には原発巣は瘢痕組織のみで腫瘍細胞を認めず,組織学的治療効果はGrade 3(著効)と判定されたが,肝転移巣の一部に変性を伴う腫瘍細胞が少量残存していた.術後capecitabine,trastuzumabによる補助化学療法を1年間施行し,術後18カ月現在,無再発生存中である.