2015 年 40 巻 6 号 p. 1199-1206
症例は60歳の男性.食道癌の診断で右開胸開腹食道亜全摘術,3領域郭清,胸壁前経路,有茎右半結腸再建,血行再建術を施行した.術後第3病日より偽膜性腸炎のため下痢が頻回に出現するもバンコマイシンにより軽快傾向を認めた.術後第11病日に胸壁前経路で再建した結腸の著しい拡張,腹部全体の膨瘤を認めCT検査の結果,胸壁前経路右側へ腸管が陥入した腹壁ヘルニアによるイレウスと診断した.同日緊急手術を施行しヘルニアを修復,開腹下にイレウス管を挿入して減圧を行った.術後,再度偽膜性腸炎を併発したが,他に大きな問題なく経過,再手術後第35病日に軽快退院した.食道癌術後ヘルニアの合併は稀であり,ほとんどが後縦隔経路に陥入したもので,胸壁前経路に腸管が脱出した腹壁ヘルニアの報告はない.今回われわれは胸壁前経路に腸管が脱出した稀な腹壁ヘルニアの1例を経験したので報告する.