2018 年 43 巻 5 号 p. 952-958
われわれは小腸および虫垂が嵌頓した大腿ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は80歳代の女性で,嘔吐,腹痛を主訴に当院受診した.右鼠径部に3cm大の圧痛を伴う膨隆を認め,腹部は著明に膨隆していた.また,腹部造影CTで右大腿動静脈内側,恥骨筋前面に小腸の嵌頓を認め,右大腿ヘルニア小腸嵌頓による腸閉塞と診断した.腸管の血流異常は認めなかったため用手的な還納を試みたが不可能であったため,緊急手術を行った.手術所見では,右大腿輪へ小腸が嵌頓しており小腸壊死を認めたため,小腸部分切除を施行した.また,その背側に虫垂の嵌頓も認めたため,虫垂切除を行い,大腿輪縫縮によりヘルニア修復を施行した.大腿ヘルニア嵌頓内容物は大網,小腸,大腸の順で多く虫垂は稀であり,小腸および虫垂嵌頓が併存した例は現在まで報告がなく,本症例が本邦で初めてである.