2023 年 48 巻 5 号 p. 521-527
73歳女性.35歳頃神経線維腫症1型(以下,NF-1)と診断され,67歳時に右乳房Paget病に対して右乳房全切除術を施行し,エピルビシン+シクロホスファミドによる化学療法後,5年間のアナストロゾール内服終了し,経過観察中であった.今回,左乳頭部びらんを自覚し外来受診.乳頭部皮膚生検の結果,左乳房Paget病の診断であった.マンモグラフィ,超音波検査で腫瘤は認めずもMRIでは乳頭および乳頭下の索状の造影部分を認め,左乳房全切除術およびセンチネルリンパ節生検を施行した.病理結果は,Paget病(浸潤なし),n(-),ER(-),PgR(-),HER2はscore3であった.NF-1は,多発性神経線維腫とcafé au lait spotsが特徴的な遺伝性疾患であり,上皮性悪性腫瘍を合併する頻度は比較的少ないとされている.本邦では異時性両側乳房Paget病やNF-1に合併した一側乳房Paget病の報告は散見されるも,今回経験したNF-1と異時性両側乳房Paget病を合併した症例は渉猟しえた限りでは本邦初の報告であり,若干の文献的考察を加え報告する.