1999 年 24 巻 5 号 p. 691-695
80歳以上の高齢者に対する腹部手術の特徴と問題点を明らかにするため, 当科症例70例を対象に, 疾患や術前のリスク, 手術, 術後合併症, 在院日数などを検討した。その結果, 疾患は大腸癌, 胃癌などの悪性腫瘍が53%であり, 胆石症20%, ヘルニア13%などであった。術前リスクを有する例が64%を占め, 高血圧などの循環器系合併症が最も多く, 次いで, 神経系合併症, 呼吸器系合併症, 糖尿病などであった。手術は, 家族からの拒否や痢呆のため7例で施行されなかったが, 他では標準的手術が行われた。術後合併症を24%に認め, 上腸間膜動脈閉塞症の1例が術死した他, せん妄を5例に, 肺炎や創感染などを5例に認めた。術後在院日数を, 胃癌, 大腸癌, 胆石症, 鼠径ヘルニアについて80歳未満と比較したが有意の差はなかった。80歳以上に対しても標準的手術が可能であるが, 術前リスクを有したり, 術後合併症の発生頻度が高いので, それらに対する適切な対応が必要である。