2000 年 25 巻 6 号 p. 892-895
妊娠時に診断された胃癌症例4例を経験したので, 報告する。症例はいずれも30歳代で, 心窩部痛や嘔気・嘔吐を主訴として来院した。通常の妊娠悪阻と異なり症状が続くため, 上部消化管内視鏡検査を施行して胃癌と診断した。左鎖骨上窩リンパ節に転移を認めた1例を除く3例では開腹したが, 胃周囲臓器への直接浸潤や腹膜播種性転移を認めたため, 単に胃空腸吻合術や試験開腹術に終った。術後に癌化学療法を積極的に行ったが, いずれも1年以内に死亡した。なお術前に2例で人工妊娠中絶を, また誘発分娩および帝王切開を各1例で施行した。妊婦では胃癌の診断が遅れて進行癌で発見される例が大多数であり, 予後は不良である。したがって妊婦ではより積極的に上部消化管内視鏡検査を行い, 早期診断に努める必要がある。また治療は基本的には母体の生命を第一に考えて行うが, 妊娠時期や癌の進行度などを考慮して, 外科的および産科的処置を行う必要がある。