抄録
約3年前に食道癌・胃癌に対し,食道・胃全摘術,左半結腸による胸骨前皮下食道再建術を施行された症例が,僧帽弁に逆流を認める感染性心内膜炎と診断された.右第四肋間開胸で僧帽弁置換術を施行し,良好な結果を得た.症例は77歳の男性であった.発熱,肉眼的血尿,食欲不振を主訴として来院し入院した.心エコーで IV度の僧帽弁逆流と診断され,血液培養で Streptococcus species が検出された. NYHA はIV度であったが,抗生剤で治療し,約1カ月後に僧帽弁置換術を施行した.胸骨正中切開は再建食道のため不可能で,右前側方開胸で手術を施行した.人工心肺の送血は右大腿動脈とし,脱血としては右大腿静脈から下大静脈まで脱血管を挿入し,右内頸静脈を皮膚切開で露出して上大静脈まで脱血管を挿入した.25℃まで全身を冷却し,心室細動下に右側左房切開で,僧帽弁を SJM 29mm人工弁で置換した.術中胸腔内には二酸化炭素を充満させた.加温後,直流除細動で心拍再開し,大動脈基部に心筋保護液注入管を挿入し,空気抜きを施行しながら人工心肺から離脱した.術後,覚醒時全身痙攣が見られたが一度で消失し,以後良好な経過であった.