2011 年 40 巻 3 号 p. 115-119
症例は48歳女性.平成12年に不全型ベーチェット病と診断され,下肢深部静脈血栓症の既往もあるためコルヒチンおよびワルファリンを投薬され,症状は安定していた.平成22年に行われた検診での大腸内視鏡検査で虫垂腫瘍を指摘され,その術前精査として行われた胸部造影CT検査で下大静脈・右房内に存在する腫瘤を認めた.血管ベーチェット病による静脈血栓を疑ったが,虫垂腫瘍に関連した転移性の腫瘍あるいは原発性心臓腫瘍との鑑別は困難であった.有茎性で先端が右房内を浮遊しており肺塞栓発症が懸念されたため準緊急的に腫瘤摘除を行った.体外循環補助下に右房を切開し直達的に腫瘤を摘除した.腫瘤根部は下大静脈内膜に付着していた.標本は病理所見上血栓組織であった.術後は重篤な合併症を認めず,第16病日に独歩退院した.1カ月後に虫垂腫瘍に対し回盲部切除術が施行されたが,病理診断は粘液性嚢胞腺腫であった.血管ベーチェット病に併発する心内血栓症は稀であり,心内腫瘤の鑑別診断として重要である.