日本心臓血管外科学会雑誌
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[成人心臓]
透析導入後にヘパリン起因性血小板減少症と診断された不安定狭心症に対する心拍動下冠動脈バイパス術の1例
濱石 誠岡田 健志平井 伸司三井 法真
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2016 年 45 巻 5 号 p. 223-228

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抄録

ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin Induced Thrombocytopenia : HIT)はヘパリンの重大な副作用であり,血小板減少をきたし重篤な動静脈血栓症を合併しうる疾患である.症例は53歳,男性,慢性腎不全急性増悪,うっ血性心不全,肺水腫,肺炎で緊急入院となり人工呼吸管理下に透析治療を行い集中治療とした.全身状態の改善後に冠動脈造影検査を行ったところ,陳旧性心筋梗塞・不安定狭心症(重症三枝病変)と診断した.手術治療を検討していたが,ヘパリン使用下に透析を導入したところHITを発症した.冠動脈病変に対しては早期の手術治療が望ましいが,HIT発症後の急性期での手術は血栓塞栓症が発症するリスクは非常に高い.HIT抗体が存在する時期に手術を行う場合,手術の至適時期決定に明確な判断基準はなく,その判断に苦慮する.血小板数・D-dimer・FDP・Fibrinogenの値が改善している状態はHIT抗体によるトロンビン産生が低下している状態であり,これらの値の改善はHIT抗体の減少と活動性の低下を示唆する考えのもとに,手術の至適時期を決定するため血小板数・D-dimer・FDP・Fibrinogen値を経時的に評価した.そして,HIT抗体が存在する時期であるが,血小板数・D-dimer・FDP値が改善した時期にアルガトロバン使用下に心拍動下冠動脈バイパス術を施行した.術後にバイパスグラフトの開存を確認し,周術期に血栓塞栓症を併発せず合併症なく退院し,良好な経過を得た.HIT抗体が存在する時期に手術を行う際,手術時期決定の判断材料として血小板数・D-dimer・FDP値の改善は有用な指標の1つと考えられた.

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