2021 年 50 巻 5 号 p. 305-308
症例は61歳女性.14年前より潰瘍性大腸炎に罹患し,近年は内服加療にてコントロールは良好であった.労作時呼吸苦の精査にて僧帽弁後尖逸脱による重度僧帽弁逆流の診断となり,当院当科にて右小開胸による低侵襲僧帽弁形成術を施行した.集中治療室帰室後の採血にて血中クレアチニンキナーゼ(CK)およびCK-MBの高値を認め,翌日以降の採血でもCK-MB高値を認め,血中トロポニン値の高値および標準12誘導にて新規にST変化を伴っていたことから術中冠動脈トラブルの可能性が否定しきれないと判断し,術後2日目に冠動脈造影を行うも狭窄所見は認めなかった.CKの改善傾向に反してCK-MB高値が遷延していたことからCK-MBの偽高値の可能性を考慮してCKアイソザイムを確認したところ,マクロCK血症と診断された.マクロCK血症では免疫阻害法によりCK-MB値が偽高値となることが知られている.開心術後ではCK,CK-MB,トロポニン値が高値になることが多く,マクロCK血症の鑑別は非常に困難である.術後データの推移や生理学的検査を参考にして術中の冠動脈トラブルを否定し,最終的診断を行っていく必要があると考えられた.