症例は45歳男性,40歳時に僧帽弁形成術および冠動脈バイパス術が施行された.術後にMRSE敗血症を合併したが,抗菌薬投与ですみやかに炎症所見は改善し退院した.外来経過観察中,炎症の再燃は認めなかったが,徐々に僧帽弁狭窄が進行し,術後4.5年頃から労作時息切れも出現した.再手術が検討されていたが,術後4.7年目に脳梗塞を発症した.心原性脳梗塞症を疑い,精査を施行したが明らかな塞栓源は指摘できなかった.その後の4カ月間に2回脳梗塞を発症し,再検した経食道心エコーで僧帽弁位人工弁輪に疣贅を疑う所見を認めた.炎症所見は乏しかったが,血液培養検査でMRSEが検出され僧帽弁形成術時に検出された菌と同一株の可能性があった.以上より人工弁輪感染と診断し,再手術を施行した.再手術所見では人工弁輪は3カ所の疣贅部分以外は厚い仮性内膜に完全に被覆され,それに連続するパンヌスの増生により僧帽弁口の狭小化を認めた.3カ所の疣贅は人工弁輪を縫着した縫合糸に付着していた.手術は人工弁輪を除去後,機械弁による僧帽弁置換術,三尖弁輪縫縮術を施行した.術後は長期間抗菌薬投与を行い,感染の再燃,脳梗塞の発症は認めていない.本症例は初回僧帽弁形成術周術期に発生した人工弁輪感染後の慢性感染の1例と考えられた.