2023 年 52 巻 4 号 p. 239-243
開心術後心停止は,胸骨圧迫により重大な合併症を起こす可能性があるという点で,一般的な心停止と異なる.The Cardiac Surgery Advanced Life Support (CALS) は,開心術後心停止に対する心肺蘇生法として,2017年米国胸部外科学会 (STS) のエキスパートコンセンサスで推奨されており,当院では,2019年に同プロトコルを導入した.2019年4月から2022年5月までに開心術550例を行い,その中で術後心停止となりCALSプロトコルを発動した6例 (1.1%) を経験した.本報告では,虚血再灌流障害によるR on Tを繰り返す心室細動 (ventricular fibrillation: VF) を呈した症例を,その他5例のデータとともに報告する.症例は,67歳男性で,右冠動脈の灌流不全と心タンポナーデを伴うStanford A型急性大動脈解離に対し大動脈基部置換術,上行弓部大動脈置換術および冠動脈バイパス術を施行した.術当日,VFとなり,ICUスタッフにより速やかに電気的除細動が行われた.洞調律に復帰したが,数十秒から数分ごとにVFを繰り返した.再開胸による直接心臓マッサージと経皮的体外循環補助装置の装着を行うことで,VF発作は消失した.胸骨圧迫は回避され,神経学的合併症はなく,生存退院された.開心術後の心停止に対して,CALSプロトコルに従い,胸骨圧迫による合併症を回避し,蘇生を行うことができた.