抄録
冠動脈に有意病変を有しない僧帽弁膜症患者で, 初回手術時, 再手術時の2回にわたり高度の術中冠攀縮を発生したまれな1例を経験した. 患者は56歳女性. 7年前 (49歳時) の僧帽弁交連切開術の際にも術中に強い冠攀縮をきたし, IABP駆動下にようやく救命できた. 再手術時には, 麻酔導入時から心電図上STの高度上昇を伴う徐脈と低血圧の発作が頻回に生じ, ニトログリセリン静注も効果が少なく, そのまま体外循環に移行して僧帽弁置換術を施行した. 人工心肺離脱後も冠攀縮発作が頻発したが, ニトログリセリン, ノルエピネフリン, IABPなどの併用により救命できた. 術中術後の全経過を通じて心筋逸脱酵素の上昇を認めなかった.