1999 年 28 巻 5 号 p. 335-338
症例は53歳の男性. 狭心症の精査のさい juxtarenal type の腹部大動脈瘤を指摘された. 瘤径は7.2cmであったが3枝病変であったため冠動脈バイパス術を優先し, 2期的に腹部大動脈瘤に対しY型人工血管置換術を施行した. 術前のCTにて瘤の後面を走行する大動脈後性左腎静脈を認めたが術中損傷は認めず順調に経過した. 大動脈後性左腎静脈の発生頻度は2%程度であるが, 大動脈後面を腰静脈, 奇静脈または半奇静脈との吻合静脈が複雑に走行し, これらは非常に脆弱であるため腹部大動脈の不用意な剥離により予期せぬ大出血をきたす可能性があり, 死亡例も報告されている. このため的確な術前診断および慎重な術中操作が重要である. さらに本疾患は血尿などを主徴候とする大動脈左腎静脈瘻, 左腎静脈補捉症候群と関連することも念頭におく必要がある.