抄録
左側下大静脈を伴った腹部大動脈瘤破裂を経験したので報告する.症例は74歳男性,主訴は腹痛および意識消失発作.腹部造影CTにて破裂性腹部大動脈瘤と診断し,緊急手術を行った.術中,通常左腎静脈の存在する高さに大動脈前面を乗り越える大きな静脈を認め,左側下大静脈と診断した.中枢側吻合にさいして,左側下大静脈を慎重に剥離,授動することで,安全に人工血管置換術を施行することができた.術後に急性腎不全となり,9日間の持続血液濾過透析を要したが,腎機能は徐々に改善し,術後46日目に軽快退院となった.下大静脈の奇形は希ではあるが,腹部大動脈の手術,とりわけ緊急例においては,思わぬ血管の損傷などを起こさないためにも,外科医は常にその可能性を念頭において手術に臨む必要がある.