抄録
症例は68歳,男性.約13年前に冠動脈バイパス術(CABG)3枝を施行されており,今回は大動脈弁狭窄症(AS),僧帽弁閉鎖不全症(MR)の診断で手術を行った.術前冠動脈造影検査では左内胸動脈グラフト(LITA)が良好に開存しており,また,2本の大伏在静脈グラフト(SVG)も1本に狭窄を認めたがそれぞれ開存していた.手術は再胸骨正中切開下に大動脈弁置換術(AVR),僧帽弁形成術(MVP),SVGによる再CABGを施行した.そのさい,胸腔内でのLITAの剥離は行わずに,左鎖骨上切開により左内胸動脈根部を露出し,大動脈遮断中に同部をclampすることでLITAのflowによる心筋保護液washoutを防止した.なお,心筋保護は逆行性心筋保護を用い,体温は中等度低体温(咽頭温29.3度)とした.この方法はLITAを剥離操作によって損傷する危険を回避し,かつ超低体温法などを用いなくても確実な心筋保護効果が期待できる安全かつ有効な方法であると思われる.