2007 年 36 巻 1 号 p. 23-27
症例は68歳,女性.嗄声を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し,精査により最大短径60mmの遠位弓部大動脈瘤を指摘された.術前検査で右中大脳動脈閉塞による安静時の脳血流低下および脳血流予備能の低下が認められたため,胸部大動脈瘤手術に先立って右浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を行った.脳外科手術後18日目の脳血流シンチにて脳血流の改善を確認したのち,22日目に全弓部大動脈人工血管置換術を施行した.術直後から24ヵ月後の現在まで神経学的合併症はなく良好に経過している.本症例では浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を先行させ,二期的に胸部大動脈瘤手術を行うことで胸部大動脈瘤の周術期の虚血性脳合併症を回避することができた.