2007 年 36 巻 1 号 p. 8-11
左内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術後に,左鎖骨下動脈近位部の閉塞または高度狭窄をきたすと,冠動脈より内胸動脈へ逆行性の血流が生じ,心筋虚血をきたすことがあり,coronary subclavian steal syndrome(CSSS)とよばれている.今回われわれは,心原性ショックにより発症したCSSSの1症例に対して腋窩動脈-腋窩動脈バイパス術を施行し良好な結果を得たので報告する.症例は70歳,女性.10年前に左内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術を施行した.心原性ショックにより発症し,造影検査で左内胸動脈が冠動脈より逆行性に造影され,左鎖骨下動脈起始部の完全閉塞を認めた.CSSSによると思われる狭心痛をくり返したため腋窩動脈-腋窩動脈バイパス術を施行し,以後狭心痛なく経過した.腋窩動脈-腋窩動脈バイパス術は心原性ショックにより発症したCSSS症例に対して,合併症なく施行することができ有用であった.