発達心理学研究
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4,5歳児における嘘泣きの向社会的行動を引き出す機能の認識
溝川 藍
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2011 年 22 巻 1 号 p. 33-43

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抄録

感情表出の機能の理解は,社会的適応とも関連する重要な発達課題の1つである。溝川(2009)のインタビュー調査からは,嘘泣きと本当の泣きを区別できる幼児の約4割が「嘘泣きの表出者に対して向社会的行動を取る」と語ることが報告されている。しかし,幼児が嘘泣きのどのような側面に注目して「他者の向社会的行動を導く」と判断するのかは明らかになっていない。本研究では,4歳児28名と5歳児32名を対象に個別実験を行い,仮想場面の主人公(表出者)と他者(受け手)の間に被害-加害関係がある状況と被害-加害関係の無い状況で,主人公が嘘泣きと本当の泣きを表出する場面をそれぞれ提示し,「主人公は本当に泣いているか」,「主人公の感情」,「他者の感情」,「他者の行動」について尋ねた。嘘泣きと本当の泣きを区別できた子どもの回答の分析から,4歳児は被害無し状況よりも被害有り状況で,嘘泣きが他者の向社会的行動を導くと判断することが示された。5歳児では,被害有り状況では嘘泣きの表出者に悲しみ感情を帰属した者ほど,被害無し状況では嘘泣きの受け手に共感的感情を帰属した者ほど,向社会的行動判断をしていた。本当の泣きに対しては,年齢や被害の有無にかかわらず,大半が向社会的行動判断をしていた。結果から,嘘泣きが向社会的行動を導くとの判断をする際に,4歳児は状況における被害の有無を考慮し,5歳児は表出者や受け手の感情を考慮することが示唆された。

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© 2011 一般社団法人 日本発達心理学会
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