本研究は,幼児が,言語だけでは伝えにくい技能を,他者の熟達が進むようにいかに教示するのかを検討した。34名の幼児を対象に,折り紙を使ったかぶとの作り方を,「折り紙がうまく作れず,一人で上手に作れるようになりたい」と紹介された学習者に教えるように求めた。あわせて,心の理論課題と,技能の学習プロセスを内省する課題も実施した。その結果,以下のことが明らかになった。1)年中児も年長児もともに,実演が中心であったが,年長児は教え始める際に,学習者の注意を自分に向けさせる発話が多かった。2)年中児は学習者の失敗を直接修正して代行することが多いのに対して,年長児は学習者自身が折ることを促す間接的な教え方をする傾向が認められた。3)心の理論課題の得点と,教示中に学習者の様子をモニタリングすることの間に有意な相関があった。また,自身の学習プロセスを自覚することと,学習者を主体にした間接的な教え方をする傾向の間にも有意な相関が認められた。以上のことから,年長児以降,他者の技能を向上させることを意図した教示が可能になることが示唆された。