発達心理学研究
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学校から仕事への移行期間延長と青年期研究の課題
乾 彰夫
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2016 年 27 巻 4 号 p. 335-345

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抄録

本論は,若者の移行研究の立場からの,発達心理学研究への若干の問題提起と問いを意図している。欧米でも日本でも,若者の大人への移行の期間は近年,安定した就労,離家,結婚など主要な指標に照らして長期化した。こうした変化に応ずる形で,欧米においては,例えばアーネットの主張するemerging adulthoodのように,この延長された期間をとらえるための新たな理論が提起され,またそれらの是非をめぐる激しい論争が展開されている。とくに重要な争点は,emerging adulthoodが先進国における新たな普遍的発達段階といえるか否かということである。アーネットはその普遍性を主張するが,他の研究者からは,これはもっぱら大学進学が可能なミドルクラスの若者にのみあてはまるもので,低階層の若者たちの経験が無視されているとの批判を受けている。日本の発達心理学には青年期を対象とした研究は少なからずあるとはいえ,移行の長期化に注目した研究は未だそれほど多くない。さらに,青年期研究のほとんどが高等教育機関に在籍する学生やその卒業生を対象としていることも,重大な問題であるように思われる。大学等に進学しないような若者たちは日本の発達心理学には存在しないのだろうか。

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© 2016 一般社団法人 日本発達心理学会
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