発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
発話意図推測からみた自閉スペクトラム症児の語用論的能力
伊藤 恵子安田 哲也小林 春美高田 栄子
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2020 年 31 巻 2 号 p. 80-90

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抄録

自閉スペクトラム症(ASD)児のコミュニケーション支援のため,話者の発話意図推測から,かれらの語用論的能力を検討した。17名のASD児と13名の定型発達(TD)児を対象とし,映像によって話者の発話意図を推測する実験を行った。その結果,ASD児,TD児とも冗談と嫌味の推測が困難であったが,ともに話者の発した言語的意味とその発話意図の異同には気づいていた。まず場面状況,次に話者の表情,最後に刺激音声というように,発話意図を推測する上で手がかりとなる情報が顕在的に提示される映像刺激であれば,ASD児もTD児と同様に発話意図を推測できた。視線分析に関しては,状況判断のための事物(例えば上手か下手かといった判断をするための紙に書かれた習字)を,ASD児はTD児よりも長く見ていた一方,それ以外のものに関してはTD児のほうが長く見ていた。これらの事物及びそれ以外のものを見る頻度は,TD児がASD児よりも多かった。話者の発話場面では,ASD児とTD児は,顔,なかでも目や口を見ている時間や頻度に違いがなかった一方,TD児に比べASD児は,話者の体及び鼻への総注視時間が長く,総注視頻度も多かったのに対し,話者以外への総注視時間が短く,総注視頻度も少なかった。支援に関しては,日常生活で話者の発話意図を推測する上で,潜在的に存在する重要な文脈情報を自発的に発見し,その利用を促す学習が必要と考えられた。

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© 2020 一般社団法人 日本発達心理学会
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