2022 年 33 巻 4 号 p. 346-355
本研究の目的は,ウェブ調査を用いて5年間にわたって全国的に収集された長期縦断データセット(N=1,448)及び3週間にわたって小規模に対面実施して収集された短期縦断データセット(N=91)を分析して,本邦における青年期・成人期以降の抑うつの変化の軌跡を描き出し,初回調査時点で測定された行動賦活系(Behavioral Activation System; BAS)と行動抑制系(Behavioral Inhibition System; BIS)の2つのパーソナリティ特性がその後の抑うつの変化の軌跡をどのように予測するかを検討することであった。混合軌跡モデリングの結果,抑うつには低群・中群・高群の3つの異なる変化の軌跡が同定された。また,多項ロジスティック回帰分析の結果からは,BASが低く,BISが高いと,抑うつの高い軌跡へと所属しやすいことが示された。以上の結果は,いずれの縦断データセットの場合でも一貫していた。本研究は,本邦における青年期・成人期以降の抑うつの縦断的なプロフィールに不均質性を見出し,BASとBISの2つのパーソナリティ特性は抑うつの変化の異なるパターンに対して予測的な役割を果たすことを明らかにした。今回の知見は,抑うつの高い軌跡への所属確率が高まる個人のより早期の同定と対処に示唆を与えるものである。