発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
原著
所属集団の同異は行動の意図性判断に影響するか:副作用を伴う行動に関する検討
後藤 加那実藤 和佳子
著者情報
ジャーナル 認証あり

2024 年 35 巻 3 号 p. 138-147

詳細
抄録

ある行動がもたらす副次的な結果の道徳的善悪によってその行動の意図性に関する判断が左右されるという副作用効果は幼児にも観察される。行動の意思決定者とその行動の副作用を引き受ける相手との親疎関係が副作用効果に影響を与えることが示されてきたが,行為者の行動の意図性を判断する者と行為者の関係性も影響を与えるのかは明らかではない。そこで本研究では,最小条件集団パラダイムを用いて内集団・外集団を構成することで実験参加者と行為者の社会集団を操作し,行動の意図性判断に及ぼす影響について検討した。また,行動の意図性判断との関連が仮定される行動ならびに行為者の善悪判断についても実際に関連がみられるかを検討すると同時に,集団帰属による影響についても検討した。その結果,幼児における副作用効果は追試されたものの,行為者が内集団メンバーだった場合,行動の意図性判断は副作用の正負に影響を受けなかった。また,行動や行為者への評価は行動の意図性判断と関連し,いずれも正の副作用が生じた場合には善,負の副作用が生じた場合には悪と判断された。ただし,行動への評価については,正の副作用が生じた場合においてのみ,行為者が内集団である場合に外集団である場合より善と多く判断された。本結果から,行動の意図性判断と行動の評価は,行為者の行動の意図性に関する判断者と行為者が所属する社会集団の同異が影響を与える可能性が示された。

【インパクト】

本研究は,正負の副作用を伴った行動の意図性を幼児が判断する際に,その判断者である幼児自身と行為者との社会集団の同異が影響を及ぼすことを初めて明らかにしたものであり,行動の意図性判断に作用する要因の1つを特定した点にインパクトがある。行動の意図性を判断する者と行為者との間に何らかの社会的関係が存在することは現実的に多く,日常のコミュニケーションにおける行動の意図性判断を考えるうえでも有用である。

著者関連情報
© 2024 一般社団法人 日本発達心理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top