抄録
本研究の目的は, 青年期の同一性地位各群が示す『事象の記憶』を検討することにより, 同一性地位達成過程における『事象の記憶』の働きを検証することである。研究1 (質問紙調査) では, 118名の大学生を対象に, (1) 同一性地位を測定し, (2) 現在の自己に関することと人生におけるいくつかの重要な決定項目について, (3) それらの決定項目の具体的なきっかけと考えられる過去の事象についての記憶 (『事象の記憶』) を調査した。この結果, 達成群の『事象の記憶』の明瞭さは非達成群より有意に低かった。研究2 (面接法) では, 44名の大学生に, (1) 同一性地位面接と, (2) 同一性地位面接で用いた質問項目の具体的なきっかけと考えられる記憶についての面接を行った。この結果, 『事象の記億』と現在の命題との関連は, 達成群の方が非達成群より有意に高かった。研究lと研究2の結果より, 達成群が示す『事象の記憶』は, 経験に忠実な記億というより, 再構成され, 命題との関連が高いものだった。全体的討論で検討したところ, 同一性達成過程では, 関連する『事象の記憶』が繰り返し参照され, 現在の命題との関連を深めていくのではないかと考えられる。