2019 年 55 巻 5 号 p. 189-199
運転中に前方に発生する異常事象をいかに素早く発見するかに着目すると,運転士の注視行動(注視対象物や注視時間)のあり方が重要だと考えられる.本研究では,異常事象発見のための有効な視覚探索方略を明らかにすることを目的とした.鉄道事業者の現役の運転士121名を対象に,視線検知装置付き運転シミュレータを用いた実験を行った.運転シナリオは二重課題とした.メインタスクは事前に知らされた地上設備故障の手前で一旦停止する課題,サブタスクは約90 km/hで走行中に事前に知らされていない隣接線の陥没を発見し停止するという課題であった.陥没箇所を発見し通り過ぎる前に停止した運転士を「発見群」,陥没箇所を通り過ぎた運転士を「非発見群」と分類した.運転士の注視行動を分析した結果,発見群は非発見群と比較して,前方正面の総注視時間が長く,一回あたりの注視時間も長かった.