2020 年 27 巻 1 号 p. 62-68
経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は皮質興奮性を修飾できる非侵襲的脳刺激の1つであり,近年では神経障害性疼痛のリハビリテーションに応用されつつある.本研究では,サーマルグリル錯覚Thermal Grill Illusion (TGI)とよばれる実験手続きによって神経障害性の“ような”痛みを健常者に誘発し,その痛みがtDCSによって緩和するのかを検証した.健常者40名を無作為にtDCS群20名とSham群20名に分け,tDCSあるいはSham刺激の前後にTGIで痛みを誘発した.tDCSおよびSham刺激前後での痛み(Short Form McGill Pain Questionnaire version-2: SF-MPQ-2)の軽減量を両群で比較すると,tDCS群のほうが有意に痛みの軽減量が大きかった(p<0.05).とはいえ,その軽減量は1.28 ± 0.76(0-10点)であり,対象者が明確に実感できるほどの疼痛緩和をもたらすものではなかった.これらのことから,神経障害性疼痛の緩和を企図したtDCSは,単独で実施するのではなく,複数のリハビリテーションツールを組み合わせながら活用するべきであることが示唆された.