教育心理学研究
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原著[実践研究]
ダウン症児の文章理解の学習
―社会文化的アプローチによる一生徒の学習過程の分析から―
楠見 友輔
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2019 年 67 巻 4 号 p. 330-342

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抄録

 本研究の目的は,国語の授業における1名のダウン症児と教師の相互行為を分析し,ダウン症児への文章理解教育についての示唆を得ることにある。知的障害特別支援学校中学部1年の国語の授業8回をビデオカメラで記録した。中度知的障害のあるダウン症児に対して教師が推論的質問を行った後の相互行為を対象とし,社会文化的アプローチの観点による教室談話分析を行った。対象生徒は,初め教師の質問に対して既有知識のみを参照する応答を行っていたが,この時点では既有知識は対象生徒のテキストを参照する推論を妨げていた。後半回では,対象生徒はテキストに基づく読みを行うようになり,既有知識が推論を促すように機能することが見られるようになった。教師は生徒の推論的質問への応答が正答ではなかった場合に,評価を避ける,根拠を求める,情報量を徐々に増やす,という特徴を持った聞き返しによる長いフォローアップを続けていた。これが対象生徒の思考を働かせ,自分自身で読み方を修正することを促したことが示唆された。ダウン症児の文章理解の学習を分析するには,本研究のように生徒の読み方の過程に注目することが有効であることを指摘した。

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© 2019 日本教育心理学会
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