本研究は,幼児のインスクリプション(線画,絵画,文字を含む,かかれた線の総称)が記憶補助となる条件を特定することを目的とした。分析1では,3―7歳児のインスクリプションが記憶補助として役に立つのかという既存の調査(メモかき課題)と対応させて,それが他者にも理解できるのかという調査(メモ評価課題)を実施し,両者の関係を検討した。その結果,他者に理解可能な形式(文字と,明確に図像的象徴性のある絵画)が記憶補助として役に立っていた。そのため,幼児のインスクリプションが記憶補助となる第一の条件は,他者に理解可能な形式であることだと考えられた。ただし,他者に理解されない形式でも記憶補助として役に立っていたものが見られた。分析2では,幼児が記憶補助としてインスクリプションを産出する時の発話を分析した。その結果,他者に理解されない形式を記憶補助として役立てていた子どもは,その意味について多く発話しながらインスクリプションを産出していた。そのため,第二の条件は,自発的な発話を伴いながらインスクリプションの意味を形成することだと考えられた。