教育心理学研究
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知能の衰えについて
第一報告
酒井 行雄
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1969 年 1 巻 2 号 p. 35-44,67

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抄録

(1) 従来の研究結果から, 知能は20才前後に発達の頂点に達し, 其の後, 年齢と共に衰退するが, 40才の後半頃からこの衰退はその速度を増すように見え, 55 才頃には13-14才の知的作業水準にまで退行する。そしてこの傾向は年齢の増加と共に更に継続することがわかる。
(2) 然し, 知能の衰えは, 知能検査の下位テストに現われる心的機能によつて甚だしい差異があり, 又検査に用いられた被験者によつても大きな差異がある。例えばもし, 知能には生得的な能力と, 経験によつて獲得せられる能力とを併せ含んでいるとするならば, 前者は年齢の影響を強く蒙るが後者はその影響を蒙ることが少ない。その結果, 65才頃には, 前者の作業得点は後者の半ばにまで減少すると報ぜられている。一方被験者群の異なるにつれて知能の減衰に非常な差が見られる) 同じ検査法によつて高年者に直接記憶を検査した結果, 一方の群は10才児以下に衰え, 他方は12才児以上の水準を示したと報ぜられている。
(3) 然しこの度の研究の被験者は平均63才7月に至るも, 特に指摘すべき知能の衰退が検査成績には現われなかつた。その得点は15才の青年のそれに近く, 下位テストに現われた異る心的機能に於いてもその何れかが顕著な減衰を示すことはなかつた。
(4) このように知能の衰えを示さないのは, 知能の質的優秀性によるのか, これを用いるか否かという環境的経験的原因によるのかは判明しない。これに関する学説にも一致するところがない。
(5) 本研究は事例が僅少なことと, 比較群を持たないこととのために, 上記の問題に対して何等解決を与えることができない。これは将来の研究に待たねばならぬ。
(6) 因子分析による最近の研究の展開は, 上述の多くの研究に示された知能の衰退の分析とよく符節を合するように思われる。知能の衰退の現象を明かにするには, 検査の結果に立脚して外から究明すると共に, 知能の因子の析出と, 各因子の関係の把捉によつて内から究明することに努めなくてはならぬであろう。

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© 日本教育心理学会
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