教育心理学研究
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自己および他人の能力認知に関する実験的研究
クレペリン精神作業検査による人格の健康性との関連において
上田 吉一
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1964 年 12 巻 2 号 p. 97-104,127

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抄録

本研究は, 精神的に健康な人格と自己および他人の能力認知との関係を究明しようと試みるものである。341 名の男女中学生を対象に, クレペリン精神作業検査を実施し, その曲線の解釈を中心に, 正常異常の程度にしたがつて, これをA, B, C, D, Eのグループに分けた。また同じ対象について, 特定の教科の期末試験時に自己および他人の予想点を記入させ, これを実際成績と照合して, そのずれdiscrepancyを算出した。その結果, 次のことが明らかにされた。
1. 精神的に健康な人格であるほど, 予想と現実との差は少なく自己についても, 他人についても, その現実の人格能力を的確に把握することができる。
2. 予想と現実との差は, 男子が女子よりもやや小さく, 一般に現実認知の能力において男子がすぐれているとみられるが, 最も健康度の高いグループ, 最も健康度の低いグループでは, むしろ女子が男子よりまさる。
3. 予想と現実の差は, 中学校1年生と3年生で大きく, 2年生で小さい。上学年になるにつれ七予想と現実との差についての男女差が大きくなつてゆく。
4. 自己についての予想と現実の差と, 他人についての予想と現実との差を比べると, 後者の値が大きい。
5. 精神的に健康な人格であるほど, 自己や他人を控えめにみる傾向がある。しかしすべての健康段階を通じて, 他人の予想の場合に過大評価の傾向が強い。
6. 精神的に健康な人格ほど, 自己に対する態度と他人に対する態度との間に矛盾が少ない。

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© 日本教育心理学会
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