教育心理学研究
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学業不均衡児に関する研究
松原 達哉
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1967 年 15 巻 3 号 p. 135-144,189

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抄録

多くの生徒の各教科別の学業成績がムラなく平均してできている学業均衡児と, 特定教科の成績はすぐれているが, 他の教科の成績は普通かまたは普通以下の学業不均衡児とがいる。そこで, 本研究では, これら生徒の徴候や原因を知能, 学力, 学習法, 家庭環境, 基本的欲求, 興味などの観点から分析研究した。
方法は, 中学2年生385名を対象に, 一定の指導案に基づいた学習指導後に学力検査を実施し, 9教科の学力偏差値の平均を中心に, どの教科の成績も±5以内にあるものを学業均衡児群 (B群) とした。学業不均衡児群 (U群) は, 国語, 社会, 英語の学力がすぐれた文科系優秀児群 (L群) と数学, 理科の学力がすぐれた理科系優秀児群 (S群) と音楽, 美術, 保健体育, 技術・家庭の学力がすぐれた技能系優秀児群 (T群) と国語, 社会, 英語, 数学, 理科の学力がすぐれた文理系優秀群 (LS群) との4群に分類した。
テストは, 最初に9教科の標準学力検査を実施し, その後一定手続きによつて教師作成の基礎テスト・予備テストを実施し, 8週間学習指導を行なつた。その後終末テストと把持テストを行ない, 把持テストによつて・各実験群の群分けを行なつた。
結果の主なものは, つぎのようである。
(1) 385人中B群は13人, U群の中L群12人, S群12人, T群4人, LS群11人合計38人であった。
(2) 知能偏差値は, B群はやや低く, L群, S群, T群, LS群はともに, 知能段階「中」であつて差はなかつた。
(3) 各群ごとの9教科の把持テストの平均を比較してみると, B群の学力は低く, L, S, T群は学力偏差値が48~53の範囲にあり, LS群はやや高い。成就値では, L群が負の値であつて知能より学力が低く, LS群は正の値であつて知能より学力がやや高い。
(4) 群ごとの各系列別の把持テスト平均を比較すると, B群はどの教科も平均して低い。L群は文科系教科の学力は高いが, 理科系教科の学力は特別低い。S群は理科系教科の学力は高いが, 他の教科の学力も低くない。T群は, 技能系教科の学力以外全般的に低く, 特に文科系教科の学力が低い。LS群は, 技能系教科を除いていずれの教科の学力も高く, 学力偏差値が60以上である。
(5) 学習法, 家庭環境, 基本的欲求, 興味などについて, 各群の傾向をまとめてみると次のようである。
(1) B群は, 学習法, 家庭環境とも悪く, 成就の欲求も低い。教科に対する興味は明確でないが, 理科系教科には興味が薄い。
(2) L群は, 学習法が全般的に低く, 特に学習計画とその利用, 学習の技能, 学習環境などが悪い。家庭環境も全般的に悪く, 特に子どものための施設に乏しい。文科系教科の興味は高く, 学習成就への欲求も高い。
(3) S群は, 全般的に家庭環境は良く, 特に, 家庭の経済的生活水準が高く, 物質的に恵まれている。精神的健康度もよいが, 学習の技能, 学習計画とその利用などは低い。また理科系教科への興味は高い。
(4) T群は, 女子のみであるが, 家庭の一般的状態はよくない (養父母, 欠損家庭) が, 物質的生活には恵まれ, 親の教育的関心は高い。学習法は全般的によく, 将来の目的・目標の成熟もよいが, 興味傾向は, 理科系教科を特に嫌つている。また, 技能系教科の成績もそれほど高くはない。
(5) LS群は, 学習法は最もよく, 家庭環境もすべてに均衡がとれて高い。特に家庭のふんい気, 両親の教育的関心はよい。そのため学力が知能に比較して高いのも肯定できる。また, 社会的事態への関心が高く, 興味は文科, 理科の各教科に高い。
(6) 視力調査では, T群がよく, B, L群に弱視がやや多かつた。

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© 日本教育心理学会
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