教育心理学研究
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依存性の発達的研究: II
大学生との此較における高校生女子の依存性
高橋 恵子
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1968 年 16 巻 4 号 p. 216-226,252

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抄録

本研究は, さきに報告した大学生女子の結果と比較しつつ, 高校生女子における依存性の様相を, 依存構造というモデルを用いて見, 青年中期から後期にかけての依存性の発達的変容に関する示唆を得るためのものであった。その結果, 明らかにされたのは次のような点である。
1) 依存構造: 大学生同様, 高校生においても相対的に強く依存要求を向けられ存在を友える機能を果たす焦点と焦点以外の幾人かの対象が互いに機能的に分化し, その意味において相互関連的な依存の対象の集合を持つことが明らかになった。これらを大学生同様の基準を用いて, 焦点が何かによってみると, 高校生においてもF型, MF型, 準ME型に分かれ, DF型というどの基準にも合致しないものは349ケース中11ケースにすぎなかった。しかし, その分布は大学生のそれとは異なり, 高校生ではF型が3割弱でより少なかった。
また, 対象間の機能分化は大学生においてより明確になっていると思われた。その証拠としてはまず第1に, MF型, 準MF型よりも分化が進んでいると考えられるF型の出現率が, 上記のように高校生では低いことである。そして第2にF型においても分化の程度が低いことがあげられる。たとえば, F型の中では殊に愛情の対象型や親友型などではそれがみられた。それは, 操作的には, 調査I (依存得点) の結果とそれとは独立の調査II (SCT形式の記述) の結果が, 大学生におけるほど一致していないことを意味する。愛情の対象型では, 得点からは愛情の対象が焦点とみなされ, たしかにこの場合の愛情の対象は他のケースにおけるそれとは異なり, 依存行動を相対的に強くひきおこしていると考えられるが, 存在を支える主な対象となりえているかというと, -調査IIの記述の中に愛情の対象が出現するのはこの型においてだけではあるが-必ずしも愛情の対象だけではなく, 親友, 母親もかなりの頻度で出現している。また, 親友型では, むしろ母親の方がより中核的な機能を果たしているとも予想された。
2) 高校生女子における依存性: 大学生にくらべ高校生において顕著に異なるのは次の諸点であった。両者の差異は, 従来の依存性の考え方からすれば, 高校生は大学生よりも依存要求が強いということになるであろう。しかし, 本研究の結果では両群においては強度の差異はむしろなく, それは次のようなものであった。
(1) 単一の焦点となる対象としては, 高校生では母親, 愛情の対象, 親友などが多く, きょうだい, 父親はほとんどなり得ない。
2) 女子青年と母親との結合の強さは従来しばしば指摘されるところであり, さきの大学生の資料でもそれがみられたが, 高校生においては, 母親はより一層強く依存行動をひきおこす重要な対象であった。母親は前述の如く単一の焦点となることも多いし, ほぼどのケースにおいても依存得点が高かった。また, 高校生では得点上の基準からは焦点とならない母親でも, 機能の記述で出現する頻度が大学生の場合よりも高く, 母親が調査IとIIの結果のズレがもっとも大きく, この点から高校生における構造の明確さの欠如が指摘された。
(3) 高校生においては同性の親友が依存行動を生起せしめることが大学生にくらべはるかに多かった。親友は単一の焦点となる場合も多いし, 全般的にも得点からすれば母親をしのぐケースが多かった。しかし, 親友型は他のF型と比較すると特徴がさほど明確でなく, 母親型の変形とも, 愛情の対象型への移行型ともいうべきものを含むようであった。
(4) MFないし準MF型は, 大学生におけるように母親型の変形とみるよりはひとつの発達の途上にあり, まだ焦点が明確化されていない, いわば移行型とみる方がよいようであった。
(5) MFないし準MF型のうちで典型的な移行型とみなされたのは, 2Fおよび準2F型の中で顕著に多い 〈愛情の対象-親友〉 という組み合わせであった。この型はその特徴からいって愛情の対象型に近く, それへ移行しつっある型とみてよいようであった。
(6) 父親は大学生にくらべ依存行動をひきおこしにくい対象であり, 1年よりは2年という具合に, 学年の上昇につれてその傾向が強くなっていた。父親はあたかも母親の付随物のように, 両親の1人としてなら依存行動をひきおこせるが, 単独では例外的にしか強くひきおこすことがないのであった。特に, 大学生同様1尊敬する人型ではこれと競合する傾向があった。父親は依存の対象として受容される場合でも, 様式 (4)(保証を求める) や, 機能の記述では「たよりにしている」など, 道具的な色彩の強い依存行動をひきおこす対象であった。
本研究の資料は横断的なものであり, かっここで用いたサンプルはさきの大学生のサンプルとの同質性が保証されていないので, 結果は限定的に考えねばなるまい。しかし現段階において女子における高校生から大学生への依存性の発達に関して得られた試み的な仮説は次のようなものである。
1°青年中期から後期にかけての依存性の発達は, 従来考えられていたような単に依存要求の強度の低下などにあるのではない。それは依存の対象の種類の変化, 対象間の分化の進歩, 各対象に対する依存の様式の変化, 依存要求の強度の変化などについて記述する方が望ましいほど複雑である。この結果からすればある個人の持つ一般的な依存要求というものは想定しにくいと思われる。実際ある対象への依存行動の強度が, 大学生になって逆に高くなることも予想された。すなわち, 大学生になって増加する愛情の対象型は, そのほとんどが上位群に属しているのであった。これは, もともと依存要求の強度が大のものが愛情の対象を持ったと考えるよりは, 逆に愛情の対象の出現がそれを強めたと考える方が自然のように思われる。おそらく, 従来考えられていたように, 幼児期に獲得されるコンスタントな一般的な依存要求量が, 各対象に分配されるのではなく, ある対象の出現によって依存要求が新たに強くひきおこされることもあるという考え方を支持する証拠になると思われる。
2°依存性の発達の重要な徴標のひとつは, 対象間の機能分化の程度にあると思われる。これは操作的には依存構造がMF型からF型になることである。そして, このF型は青年中期の高校生期には少数ながら出現する。
3°われわれは依存性の発達をある対象への中心化から脱中心化していくと考えてきたのであるが, 2°の結果から脱中心化した後.

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