教育心理学研究
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精神薄弱児における数概念の発達に関する研究: II
教示効果を中心として-
寺田 晃
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1969 年 17 巻 2 号 p. 102-117

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抄録

本研究は, 分離・連続両量につき, 数唱, 計数, 計算その他と保存に関する諸問題をとりあげ, それらの結果をとおして, 精神薄弱児の数量概念の発達段限および認知上の特性を明らかにすることを目的とした。実験は, 1 (数行動の発達に関する一般的検討), II (認知における計数化の教示とその効果に関する検討), III (保存概念獲得と, 保存法則の教示に関する実験教育的検討) などの3者に分かれる。被験者には, 精神薄弱児 (IQ60~70代, MA3~9) 全111名, 正常児 ((IQ100前後の幼児・児童) 全60名を選んだ。実験材料として, 属性を異にする各種図形, おはじきほか (分離量), 直線, ビーカーと水ほか (連続量) を用意した。主な結果と解釈として, 次下の事項が得られた。
(1) 実験I~IIの結果を総合して, 数量認知の発達に大別3段階が認められる。すなわち第1段階 (MA4才前後まで): 集合と系列の要素および全体の認知が知覚的に影響をうける段階, 第2段階 (MA4才~6才代): 要素のカテゴリーに関する一般化と数詞の抽象化, および計数化が可能であるが, 集合間の相互関係に知覚的な影響が残る段階, 第3段階 (MA7才前後からのち): 要素と全体の関係がわかり, 加減の演算から保存が成立する段階, などである。
(2) 精神薄弱児の認知は, 一般的に個々独立的な傾向にある。数量の多少等の判断に際しては, 精神薄弱児は, 計数化の適用 (その自発的教示) に乏しく, 知覚的水準で判断しやすい。しかし外部からの計数化の教示で, その成功水準を高めることもできる。
(3) 保存の形成過程には, 記号による現象的数の学習経験いかん (到達水準) が関係する。
(4) 精神薄弱児の場合, 演算までの現象的数の体系が確立しておれば, 多少等判断の指導と教示で, 保存概念を形成させうる。
(5) したがって, それだけに精神薄弱児は, 一般に論理的操作を獲得するのに先立つ各発達のステップを, 小刻みに逐一踏査する必要がある。
(6) しかし, 正常児は, 演算までの水準に到達していなくても, 計数までの水準で, 学習場面をみずから整理して保存法則を見出し, または保存の教示を適用して, 学習の効率をはかり保存課題を解決するものとみられる。
(7) 精神薄弱児は, かかる媒介的活動に乏しい。その可能性のためには, 他方成熟も必須なものと考える。

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© 日本教育心理学会
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