教育心理学研究
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法則学習における説明的方法と発見的方法の研究
松浦 宏
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1970 年 18 巻 3 号 p. 129-138

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抄録

本研究は法則的概念の学習の際に, 説明的方法と発見的方法の効果を検討したものである。説明的方法 (expository method) は, 学習すべき規則をはじめに提示し, これにいくぶんかの説明を加え, 学習の方向づけを明確にしようとする方法である。また, 発見的方法 (discovery method) は学習者自身の探索的思考にもとついて, 課題がもっている法則を学習させる方法である。発見的方法には, 学習者自身の完全な発見的方法と, 例などを与えて, ある程度の方向づけをする指示的発見の方法が考えられる。
本研究は, 実験IおよびIIでは, 大学生を被験者として, 暗号化された英単語を正しく並べかえる課題を与え, 暗号化の法則を学習させようとしたものである。ここでは, 4つの学習条件を設定した。すなわち, 説明的方法として, 法則一例 (Rule-Example) 群を, 指示的発見法として, 例一法則 (Example-Rule群) および, 例だけを提示する例群 (Example群) を, 純粋発見法として, 法則も例も提示しない統制群を設定した。ウィットロックやガスリーの研究結果をもとに,(1) 説明的方法は学習試行, 学習した法則の保持に効果的であり,(2) 発見的方法は, 学習した法則を応用して, 他の法則を発見する転移問題の解決に有効であろうという仮説をたてた。
実験の結果, 実験Iでは, R-E群とE-R群が, 他の条件群よりも, 学習基準に達した人数がわずかに多いことが得られただけて, 仮説を証明するにはいたらなかった。しかし, 実験IIでは, 説明的方法は反応数, 正答数, 正答率においてすぐれており, 指示的発見法のうち, E-R群も, R-E群と同じ傾向がみられた。これに対して, E群とC群は反応数, 正答数において, 前の 2群に比較して劣っていた。この結果は仮説1を証明するものである。しかし, C群は他の条件群よりもすぐれているとはいえないので, 仮説2は証明されなかった。ただ, E群において, 学習過程中の正答数が後半において顕著に増加することは, 発見的方法の学習過程の特徴を示すものであろう。.
実験IIIは, 小学校4年の児童150名を対象として, バランスビームの法則を学習する課題を与えた。実験I, IIの結果を考慮して, 次の5つの条件群を設定した。すなわち, R-E群, R群, E-R群, E群およびC群である。この結果は, 学習テスト得点と, 保持テスト得点では, R-E群とR群が他の3群よりすぐれ, E-R群とE群がC群よりもすぐれていた。このことは法則の提つ 示による説明的な方法がもっともよく, ついで, 指示的発見法が効果的であることを示している。
実験I, II, IIIをとおして, 転移効果の優劣を見出すことはできなかった。

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